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ジャコメッティ・インスティチュートマダムの連載の一部(10館)は書籍でもお楽しみいただけます。バックナンバーを読む
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お次は、階段を上って、ジャコメッティやその時代についての本が置かれた中2階へ参りましょう。左手には、典型的なアール・デコ様式の木製装飾が施された小さな魅力的なサロンがあります。ガラスのついた2枚の扉の向こうには本棚、暖炉の両脇にはベンチが2つ備えられています。そばにあるブロンズ製の《広場を横切る男》(1950年)がエネルギッシュな印象を与えています。

続いていくつかの部屋がありますが、アール・デコ様式の装飾は、必要な場合は元の状態に戻すことができるという原則に従って修復がなされました。そのため、チェアレール装飾は壁から隙間をとって施されているのでご覧になってみてください。

最初の部屋には、ジャコメッティが馴染みの娼婦たちをモデルにした彫刻作品が並んでいます。高い台座に乗った《台座の上の4つの小像》(1950年)や、長方形の台座の《台座の上の4人の女性たち》(1950年)のように、彼女たちを女神の姿に変えた作品は、魅力的であると同時にどこか恐ろしくもあります。彫刻作品を地面から離して据えることで、作品との間に距離をとることを奇妙なかたちで強いる仮想空間に、鑑賞者は身を置くことになるのです。
《檻》(1949-1950年)の最初のバージョンは、逸楽の世界に向かってカーテンを開けるひとりの男性とひとりの女性のいる部屋が表現されています。

次は、通りに面した部屋を見てみましょう。ここには1954年から翌年にかけて制作された《ジャン・ジュネの肖像》が飾られています。この肖像は、エジプトの書記のように脚を開き、手を腿に載せて厳かな態度で前を向いて座る姿でジャン・ジュネが捉えられています。印象的なのは、アネットやディエゴの肖像でもそうなのですが、装飾の全くない暗い単色の色遣いです。

後ろに戻り、最後の部屋へと参りましょう。往時のままに緑と黄色の花柄の装飾が施されたこの部屋では、ジャコメッティと死との関係を喚起する展示がなされています。彼の作品の脆くごつごつした側面が、人間の崩壊を思わせるのです。作品は現在から逃れ、永遠のものとなるのです。ここには、彼の代表作である《女性の立像》(1954年)、《アネット》(1961年)、《小像》(1961年)といった一連の小像が展示されています。

ひびが入り、落書きされたアトリエの壁の断片が、ジャコメッティのアトリエのつつましやかな側面と、彼の飾り気のないボヘミアン気質を表しています。埃だらけの服と靴を身につけたジャコメッティは、《男の胸像》(1949年)のような、灰色を基調とした歪んだ不安げな肖像のモデルたちに似ています。

ジャコメッティ・インスティチュートの成功の鍵は、作品との距離の近さを重視し、来館者がジャコメッティの内的世界に入り込めるようにしたことでしょう。ジャコメッティは独創的で、観るものの心をかき乱す神秘的な作品によって、世界的に愛され認められた偉大な芸術家です。そうした彼の人生、そして迷いも含めた作品の歴史がまるごとアトリエの中にあるのです。このアトリエは、抽象とミニマルアートが支配的だった戦後美術界のドグマに反し、人間の顔を執拗に表し続けた彼の仕事の証人でもあります。
ジャコメッティ・インスティチュートは、展示空間であると同時に、ジャコメッティの業績を検証する際には必ず参照すべき場所であり、そして1900年から1970年にかけての美術史の研究所でもあるのです。

友情を込めて。

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Update : 2018.10.1

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