藤田嗣治(Tsuguharu Fujita/Léonard Foujita)は、エコール・ド・パリのひとり
としてパリのモンパルナス(Montparnasse)で大輪の花を咲かせます。
フジタは2度の大戦の後の1959年、ランスの大聖堂で君代夫人とともに洗礼を受けました。
そのときの代父はシャンパン・メーカー、マムの社長であるルネ・ラルー(René Lalou)。
そしてフジタは、マムの敷地内に平和の聖母に捧げる礼拝堂を作ることを思い立ったのです。
1966年初夏、80歳の画家は礼拝堂内部のフレスコ画に着手しました。フレスコ画は漆喰を塗った壁が乾ききらないうちに素早く描かなければならないため、失敗が許されません。大変な集中力を必要としますが、フジタは毎日12時間、壁と向かい合い、全部で200m²にもおよぶ空間をわずか90日間で仕上げました。こうして秋に完成した礼拝堂は、ランス市に寄贈されることになりました。
正面の壁画にはキリストを抱いた聖母が描かれ、その右側のサインの部分に君代夫人が描かれています。君代夫人は2009年4月に逝去され、最愛の夫が眠る礼拝堂右側、≪最後の晩餐≫の絵の下に葬られました。
▲正面に描かれた平和の聖母。 ©ADAGP, Paris & SPDA 2009 |
▲晩年のフジタを支えた君代夫人の肖像。 ©ADAGP, Paris & SPDA 2009 |
▲フジタ夫妻は《最後の晩餐》の下に眠る。 ©ADAGP, Paris & SPDA 2009 |
入り口上のキリスト磔刑図の右側には、ひざまずくラルーとフジタの自画像が描かれています。ステンドグラスがある出窓の部分の壁には、この土地にふさわしくシャンパンの樽に腰掛ける聖母とキリスト、その向こうにはぶどう畑や大聖堂が見えます。聖母を樽の上に腰掛けさせるという斬新な図像を描くにあたって、フジタは法王に許可を取ったと伝えられています。
ステンドグラスはフジタの下絵を、ランスの名匠シャルル・マルク(Charles Marq)の手によって仕上げられました。その主題は、洗礼を受けたフジタの想いを表すかのように、「天地創造」や「アダムとイヴ」、「ノアの箱船」など『旧約聖書』からとられました。また聖具室の扉にも注目してください。16枚の小さな絵がありますが、イタリア・ルネサンスのボッティチェリ(Sandro Botticelli)、ドイツ・ルネサンスのクラナハ(Lucas Cranach)やデューラー(Albrecht Dürer)など、美術史を飾る巨匠にフジタが捧げたオマージュになっています。
▲フジタとルネ・ラルーの肖像。 ©ADAGP, Paris & SPDA 2009 |
▲ランスの地にちなんだ聖母の姿。左にノートルダム大聖堂が、右にサン・レミ聖堂が見える。どちらもフジタには馴染みの深い教会。 ©ADAGP, Paris & SPDA 2009 |
▲『旧約聖書』を主題に制作されたステンドグラス。 ©ADAGP, Paris & SPDA 2009 |
©ADAGP, Paris & SPDA 2009
このように礼拝堂には、見るべきたくさんのディテールがありますが、礼拝堂奥の左右にあるステンドグラスは、故国日本に対するフジタのまなざしを感じ取ることができる作品です。テーマは広島――。ヨーロッパとアジアで大戦を経験したフジタは、戦争の悲惨さを身にしみて痛感していたのでしょう。この礼拝堂を平和の聖母に捧げたのも、穏やかな世界を希求してのことです。小さい空間のなかには、画家の強いメッセージがあふれています。
- 所在地
33, rue du Champ de Mars 51100 REIMS - Tel
+33(0)3 26 35 36 00
+33(0)3 26 40 06 96 - Fax
+33(0) 3 26 86 87 75 - 開館時間
〈5月2日‐10月31日〉
14:00- 18:00 - 休館日
火曜日、11月1日〜5月1日、7月14日 - 入館料
一般:4ユーロ(ランス美術館の入館料含む)
18歳未満:無料
※毎月第1日曜は無料 - アクセス
バス7ラインにて「Foujita」下車。
トラムにて「Boulingrin」下車。
- MMFのB1Fインフォメーション・センターでは、フジタ礼拝堂に関するパンフレット(仏語、日本語)を閲覧いただけます。
*情報はMMMwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は観光局ホームページ等でご確認いただくか、MMMにご来館の上おたずねください。