その作品がニューヨーク近代美術館やポンピドー・センターにも永久所蔵されている、日本が誇る吉岡徳仁氏。吉岡氏が2002年に発表した《Water block》が、新生オルセー美術館の中でも最も人気のある展示室のひとつである印象派ギャラリーのベンチとして、訪れる来館者に安らぎのひとときを与えています。今回MMFは《Water block》の生みの親、吉岡氏に特別にインタビューさせていただく機会を得ることができました。《Water block》に吉岡氏が込めた思いなどを語っていただきます。
© Masahiro Okamura
MMF:オルセー美術館館長のギ・コジュヴァル氏と実際にお会いになって、コンセプトを話し合われたとうかがいました。新生オルセー美術館と《Water block》が出会うまでの経緯をお聞かせください。
吉岡氏:ギャラリー改装のお話は以前からお聞きしていて、2年ほど前に、コジュヴァル氏が来訪され、照明の提案や《Water block》設置のお話をいただきました。印象派の作品との共通点、また、歴史的作品と現代作品(未来)の対比が相乗効果となり、非常に面白いと思いました。保守的な美術館だったら実現できることではないアイデアですので、その思い切りが素晴らしいと感じました。
MMF:コジュヴァル氏は《Water block》にひと目惚れされたようですが、そのデザインコンセプト、またこの作品にご自身が込められた思いをお聞かせいただけますか?
吉岡氏:わたしは、透明でありながら光の屈折によって、強いオーラを放つものをつくりたいとずっと思っていました。ガラスが固まる瞬間に生まれる偶然の美しさ――。それは、水がつくり出す美しい波紋やきらめきを連想させる、自然が生み出す無秩序な美の表現でもあります。そして今回、オルセー美術館
のリニューアルに際し、マネやドガ、モネ、セザンヌ(Paul Cézanne/1839-1906)、ルノワールに代表される印象派が展示されるギャラリーに、このガラスのベンチを展示することを考えました。この《Water block》は、プラチナのモールドの特殊な技術から生み出され、まるで水の塊の彫刻のように光が屈折し、透明で力強い造形が現れる作品です。まるでモネの《睡蓮》に描かれている水面のように波だったベンチの表面は、印象派の描いた光に包み込まれ、歴史と現代の美しい対話が始まる空間をつくり出すのではないでしょうか。
MMF:水の塊のような《Water block》には、特殊な光学ガラスが素材として使用されているそうですね。この素材が持つ特徴や魅力をお聞かせください。
吉岡氏:使用されているガラスの素材は、日本古来の技術でつくられており、高い純度と透明感を持ちます。このガラスはスペースシャトルや巨大望遠鏡のレンズなど、光学的な視点から開発され、そのガラスを磨き上げることによって、水の塊をかたちにしたようなフォルムをつくり出しています。この素材を使って、2002年から10年にわたり、ガラスの
ベンチ《Water block》をはじめ、椅子(《雨に消える椅子》)、世界最大のガラステーブル(《Waterfall》)などの作品を制作しています。
MMF:印象派ギャラリーに実際に設置された《Water block》をご覧になって、どう思われましたか? また今回のオルセー美術館の改装についてどのような感想をお持ちですか?
吉岡氏:誰もが知っている、一時代を築いてきた絵画と一緒に展示されるのは、とても感動的なことでした。新生オルセー美術館の最大の持ち味は、自然光と絵画との関係性でしょう。印象派にとって重要な光との密接な関係が今回の改装によって実現され、非常に革新的な空間になったと思います。ご覧になると分かると思うのですが、以前とは絵画の表情が違い、とても興味深いと思います。歴史と未来がひとつの空間で出会うことで、印象派絵画の新たな魅力が鮮明に見えてくることを願っています。
- 所在地
62, rue de Lille 75343 Paris - Tel
+33 (0)1 40 49 48 14 - URL
http://www.musee-orsay.fr/fr/ - 開館時間
9:30-18:00
木曜日は9:30-21:45 - 休館日
月曜日、1/1、5/1、12/25
- 入館料
一般:8ユーロ
割引料金:5.5ユーロ
18歳以下:無料
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