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ファーブル美術館
Chers Amis

先日、わたくしと主人は友人を訪ねて、フランス南部、地中海沿岸の町モンペリエへの旅に出ました。そこで今回は、ラングドック地方の中心地モンペリエが誇る「ファーブル美術館」の魅力を皆さまにお伝えいたしましょう。このミュゼは4年間にわたる改修工事を終えて、昨年、その扉を再び開いたばかり。ルーベンス(1577−1640)からクールベ(1819−1877)、スーラージュ(1919−)にいたるまでの作品を含む収蔵品は、もっとも美しい西洋美術コレクションのひとつとの誉れ高い品々です。
▲ファーブル美術館の入り口。
©A. de Montalembert
   
▲ファーブル美術館のある通り。
©A.de Montalembert
今回のわたくしの旅のお目当てのひとつは、19世紀フランスの写実主義を牽引した画家クールベの回顧展(2008年6月14日〜9月28日)。昨冬にパリのグラン・パレ、続いてニューヨークのメトロポリタン美術館で大きな成功を収めたことで知られる巡回展です。
   
モンペリエはパリからTGVで3時間、交通の便がよく、心地よいダイナミズムが感じられる都市。地中海地方ならではのやわらかい光に満ち、車の乗り入れが禁じられた中心部では路面電車が静かに走る姿が見られます。モンペリエ駅からは、個性のある豪華なホテルの数々や、その素晴らしい庭園などを眺めながらの散策がおすすめです。コメディ広場からは、プラタナス並木のそぞろ歩きをお楽しみになって。木陰には一息つくのにぴったりのカフェテラスもあります。

そこからファーブル美術館へは、黒と白の幾何学文様の道をお進みになって。大理石と花崗岩でできたこの道は、それ自体がフランスの現代芸術家ダニエル・ビュレンヌによる≪ラ・ポルテ≫と題されたアートなのです。そして赤とピンクという鮮烈な色調で彩られた玄関ホールもまた、風格のある古典的なファサードとは一線を画していて、印象的でした。
▲賑やかなコメディ広場。
©A.de Montalembert
▲噴水のあるプラタナス並木。
©A.de Montalembert
   
▲スーラージュのための別棟。
©musée Fabre, Montpellier Agglomération
ファーブル美術館の礎を築いたのは、ダヴィッド(1748−1825)を師と仰いだ画家フランソワ=グザビエ・ファーブル(1766−1837)。彼がイタリア滞在の折りに集めた名品の数々を1825年、郷里モンペリエに遺贈したことからミュゼが建てられることとなったのです。そして、その3年後、マシリアン邸を改装して美術館が開館し、ファーブルは自ら初代の館長の任を負いました。このミュゼはその後も、多くの人々から寄贈を受けてゆくことになりますが、いずれもモンペリエ地方ゆかりの方たちばかりだそうです。クールベの才能にいちはやく目をつけ、数多の作品を手に入れてこのミュゼに貢献したアルフレッド・ブリュイヤス(1827−1877)もまた、モンペリエの生まれでした。

2005年スーラージュが桁外れともいえるほどの寄贈をすると、ファーブル美術館は、そのコレクションを受け入れるために新たに別棟を建てることになりました。天井の高い空間に明るい光を取り入るため、一面に2重ガラスがはめ込まれた壁は、夜ともなれば光の壁に姿を変えます。その光景の幻想的なことといったら!
   
それでは、テーマごとにまとめられた常設展を観てみることにいたしましょうか。1階で初めに目にする中庭には現代美術の作品が陳列されていますが、まずは順路に従って17世紀のフランドルやオランダ絵画のヴァルドー・コレクションへ。温かい色味の小さな展示室に、小さな作品ばかりが飾られています。なかでも、とりわけわたくしの心を捉えたのは、ダヴィッド・テニエルス(1610−1690)の≪喫煙室≫(1640)。宿屋の雰囲気がカンヴァス越しに伝わってくるかのような風俗画の傑作です。

お次は、ファーブル自らがデザインをした銅製の手すりの美を堪能しつつ、2階への階段をお上がりになって。この建物の歴史を感じさせる風格ある空間が広がります。フランスとイタリアのルネッサンス絵画が飾られた<ジュー・ド・ポームのサロン>では、ヴェネツィア派の作品にご注目なさってください。とりわけ素晴らしいのは、ヴェロネーゼ(1528−1588)のかの有名な傑作≪聖カタリナの神秘の結婚≫。聖女カタリナの黄金の髪、そして黒と金色のブロケードのマントの輝き──思わずため息をつくほどの美しさです。
 
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