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  「プロヴァンスのセザンヌ展」コミッショナー  グラネ美術館館長 デニ・クターニュ氏へのインタビュー
  セザンヌの没後100周年を記念するイベント
「セザンヌ2006」の中心となる特別展
「プロヴァンスのセザンヌ」展がいよいよ今月から始まります。
世界中のコレクションが有する約110点ものセザンヌ作品がプロヴァンスに
里帰りするのは、今回が初めて。特別展を企画したグラネ美術館館長
デニ・クターニュ氏にその見どころをお伺いしました。
   
ひとりの人間とその郷里との深い結びつき─20世紀美術の巨匠を育んだその関係性に迫る特別展の魅力
 
▲デニ・クターニュ氏
Photo : Y.Blaise / ©Musée Granet
MMF:「プロヴァンスのセザンヌ」展は、どのような点で特別なものといえるのでしょうか?
デニ・クターニュ氏(以下DC):このような特別展は今回が初めての試みです。人々が画家セザンヌに関心をもつようになったのは、今から遡ること1世紀余、1895年にヴォラール画廊でセザンヌの初個展が開かれて以降のことです。しかしながら、それ以来、「プロヴァンスにおけるセザンヌ」というテーマは、彼の作品を理解する上で重要なものであるにも関わらず、一度として開拓されることはありませんでした。
まるで、誰もがその主題を忘れてしまっていたかのようでした。エミール・ベルナール(Emile Bernard)*1モーリス・ドニ(Maurice Denis)*2はプロヴァンスにいるセザンヌを訪ね、セザンヌ作品の批評や分析を行いました。彼らはセザンヌがプロヴァンスで絵を描いていたということについては特に触れませんでしたが、心理的あるいは社会的な側面から見て、セザンヌが子どもたちから石を投げつけられるような「田舎もの」のような人物で、「パリの雰囲気は自分に合わない」と、生まれ故郷に引きこもってしまったことについては記録を残しています。(まあ、この話には若干の誇張があるかもしれませんが……)
セザンヌとプロヴァンスとの関係を強調する文章を書いた最初の人物が、ジョン・リウォルド(John Rewald)*3で、1936年に「セザンヌとプロヴァンス」という記事を発表しました。彼はこの中で、エックスの町は、郷土が生んだもっとも有名な人物、すなわち画家ポール・セザンヌに関心を持つべきであり、1939年のセザンヌ生誕100周年に際しては、「セザンヌとプロヴァンス」といったテーマで特別展を開催すべきである、と書いています。実際、その年にセザンヌの特別展は開かれましたが、開催地はリヨンで、テーマも異なるものでした。
▲65歳ごろのセザンヌ
Photo : Emile Bernard
ですから、セザンヌとプロヴァンスというテーマはまったく新しいものであるとはいえませんが、これまでに取り組まれたことのないものなのです。戦後開催された主要な展覧会のテーマは、セザンヌの「青年期と晩年期」あるいは「完成か未完成か」といったものがほとんどでした。それから1996年にはグラン・パレでは大回顧展も行われましたね。もちろん、そうした展覧会でもプロヴァンスについては触れられていましたが、今回の展覧会では、画家ポール・セザンヌの作品すべてに共通する彼の原点、つまり、ひとりの人間とその郷里との他に類を見ない深い結びつきに迫るという、美術史的に見ても独創的なアプローチをしているのです。
というのも、私たちはプロヴァンス人画家が描いたプロヴァンスの美しい絵を展示するというプロヴァンス的な展覧会を企画しているのではありません。ルーボン(Emile Loubon:1809-1863)やギグー(Paul Guigou:1834-1871)といったプロヴァンスの画家や、19世紀末にセザンヌと同様の主題を扱ったエックスの巨匠たちを対象にしているのでもないのです。
▲セザンヌ研究者ジョン・リウォルドらの尽力によって保存されたローヴのアトリエ
Photo : Jean-Claude Carbone
セザンヌは、確かに生まれ故郷と非常に強い結びつきをもった画家でしたが、エックスの風景や人々(農民や水浴びする人々など)を題材に、ニコラ・プッサン(Nicolas Poussin)*4を思わせるような国際的に高い水準の作品を描いたのです。
1990年のサント・ヴィクトワール山に関する特別展や1984年にセザンヌの絵画8枚が寄託された際の展覧会をはじめ、エックスではこれまでにも、セザンヌに関する展覧会が行われてきました。
しかし、セザンヌの再評価を促すような展覧会は今回が初めてです。
セザンヌの展覧会といえば、画家の死後50周年を迎えた1956年にパヴィヨン・ド・ヴァンドームで開かれた回顧展が脳裏によみがえります。前述のリウォルドにセザンヌ絵画の手ほどきをしたレオ・マルシュッツ(Léo Marrchutz:1903-1976)が企画したものでしたが、じつに素晴らしい作品が70点ほど展示されていました。
  *1エミール・ベルナール(1868-1941)
フランスの画家、美術評論家。宗教性と装飾性を調和させた画面の構築を目指し、ゴーギャンらとともに、ポンタヴェン派を創始した。ゴーギャンのほか、ゴッホ、セザンヌらとよく交流し、「回想のセザンヌ」(岩波文庫)など、数多くの美術評を残した。

*2モーリス・ドニ(1870-1943)
フランスの画家、美術評論家。絵画のみならず舞台装飾やポスター、挿絵など幅広い分野で展開したナビ派の中心人物で、アール・ヌーヴォー風の作風で成功を収めた。また、ルオーらとともに宗教美術の復興にも力を注いだ。

*3ジョン・リウォルド(1912-1994)
ドイツ生まれのアメリカの美術研究者。印象主義および後期印象主義の専門家で、ことにセザンヌの研究で知られる。エックスにあるセザンヌのアトリエが保存・公開されたのは、彼の功績によるところが大きい。

*4ニコラ・プッサン(1594-1665)
近代フランス絵画の父を称される17世紀の画家。安定した堅牢な構図の歴史画や寓意画を描き、ルイ13世の首席画家となる。晩年は幻想的、寓話的な風景画を残し、のちに新古典主義の画家をはじめ、ドガ、セザンヌなどに大きな影響を与えた。
 
 
 
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MMF:今回の展覧会は、セザンヌと彼の故郷との関係について、私たちに何を教えてくれるのでしょうか?
DC:セザンヌ作品の重要な特徴に迫り、作品をその内側から理解することができるかと思います。この展覧会では、ひとりの人間とその生まれ故郷にして終焉の地でもある場所との関係性を考察することに焦点があてられています。セザンヌは郷里を愛していました。ジャズ・ド・ブッファンやビベミュスの石切場、サント・ヴィクトワール山、またエックスの上に作らせたローヴのアトリエや、ガルダンヌやレスタックといったエックスから程近いいくつかの場所……それが彼の世界でした。
▲戸外で制作するセザンヌ、63歳ごろ
Photo : Gaston Berheim
世界中を見て回ることも、パリで出世しようとすることもなく、エックス・アン・プロヴァンスと呼ばれるフランスの片隅に根を下ろすことで、20世紀絵画の巨匠となった一風変わった画家──それがセザンヌなのです。
MMF:この展覧会のために借り受けたセザンヌ作品のなかで、特に素晴らしいと思われるのはどの作品ですか?
DC:セザンヌの作品はどれも名作です。他の作品と比べてより強く私の心を打つような作品もいくつかありますが、それは私の個人的な好みはもちろん、この画家が歩んだ道すじのなかで他よりも重要だと思うからです。たとえば、クリーブランド美術館の『トロネ街道から見たサント・ヴィクトワール山』やロンドンの『大水浴』などはじつに素晴らしい作品ですし、バーゼル美術館の『サント・ヴィクトワール山』もセザンヌの傑作のひとつといえるでしょう。
▲『トロネ街道から見たサント・ヴィクトワール山』(c.1904)
油彩 73.3×92.1cm
Le Mont Sainte-Victoire au-dessus de la route du Tholonet
The Cleveland Museum of Art, Legs de Leonard C. Hanna Jr.,1958.21
©The Cleveland Museum of Art
▲『大水浴』(c.1890)
油彩 127.2×196.1cm
Les Grandes baigneuses
The National Gallery, London
©2005 The National Gallery, London
『父の肖像』(ワシントン・ナショナル・ギャラリー)からは、セザンヌという画家が様々にスタイルを変えながらも、生涯を通じて天才であったことが見てとれますし、エルミタージュ美術館の『大きな松と赤い大地』は、まさに風景画のイコンといった風情です。もちろん、今ここで私がご紹介したのは、今回の展覧会で展示される作品のほんの一部です。
 
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今夏、プロヴァンスを訪れる方におすすめのイベントそして「セザンヌ2006」以降のグラネ美術館の展望─
 
MMF:「プロヴァンスのセザンヌ」展のほかに、この夏エックスを訪れる日本人旅行客にお勧めいただけるような、「セザンヌ2006」関連の特別展やイベントはありますか?
DC:まず、町にあるセザンヌゆかりの地をまわれば、エックスの見どころはひととおり押さえたことになるでしょう。
▲サント・ヴィクトワール山を望むエックスの町並み
Photo : Jean-Claude Carbone
展覧会としては、マルセイユのカンチニ美術館で「ジョルジュ・ブラックの風景画」が行われるほか、エックス市内では、旧市街博物館で「セザンヌと同世代のエックスの画家たち」、タピスリー美術館で現代アーティストのヴァンサン・ビウレスによるセザンヌへのオマージュ「灰色のアトリエ」、パヴィヨン・ド・ヴァンドームでは「19世紀におけるセザンヌ以前の風景画家たち」などが催されますが、いずれも「プロヴァンスのセザンヌ」展と同様に大きな反響を呼んでいます。
▲1998年のグラネ美術館外観
Photo : F. Prémartin / ©Musée Granet
MMF:ワシントン・ナショナル・ギャラリーとの提携は、重要なものといえますか?
DC :ええ、きわめて重要といえます。というのも、当初、グラネ美術館は一地方の小さな美術館に過ぎませんでしたので、「プロヴァンスのセザンヌ」展が、単にセザンヌを地方の次元に持って来るだけに終わってしまうのではないかと危惧していました。
しかし、1999年から2000年にワシントン・ナショナル・ギャラリーとの提携したことによって、セザンヌが間違いなく世界的な画家であることを再確認することができたのです。この提携はワシントン・ナショナル・ギャラリーでヨーロッパ絵画の主任学芸員を務めるフィリップ・コニスビー氏、ミュゼ・ド・フランスの名誉局長のフランソワーズ・キャシン氏、そしてオルセー美術館元館長のアンリ・ロワレット氏らの信頼関係の賜物といえるでしょう。とくに、コニスビー氏はプロヴァンスの地には思い入れもあり、没後100周年の記念事業がポール・セザンヌの故郷、そしてセザンヌゆかりの地で行われるという事実に、大変心を動かされているようです。
 
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MMF:セザンヌ2006以降のグラネ美術館について少しお話しをいただけますか?
DC:「プロヴァンスのセザンヌ」展のため、現在、グラネ美術館にある他のフランス絵画コレクションはご覧いただけないのですが、2006年末には常設展示として復活させる予定です。17〜18世紀のフランス絵画や、画家グラネ(François Marius Granet: 1775-1849)のコレクション(彼の作品に関しては、展示室をひとつ設け70点ほどの作品を公開します)、アングル(Deminique Ingres:1780-1867)の『ジュピターとテティス』をはじめとする新古典主義絵画、そして19世紀のプロヴァンス派の秀作などからなる充実したコレクションです。
▲美術館1階の彫刻展示室
Photo : F. Prémartin / ©Musée Granet
さらに、ジャコメッティ(Albert Giacometti:1901-1966)20点、セザンヌの絵画2点を含む70点からなる素晴らしいコレクション「セザンヌからジャコメッティまで」を匿名希望のある寄贈者から譲り受けることになっています。このコレクションを加え、計10点のセザンヌの油彩を「セザンヌの間」で展示する予定ですが、この他にもセザンヌのデッサンや水彩画なども随時、公開していこうと考えています。
MMF:最後にもう少し個人的な質問をさせてください。なぜ、セザンヌの専門家になったのですか?
DC:学生時代、私はまず哲学に興味をもち、物事や人生、芸術の意味について疑問を抱いていました。ですから、具象から抽象への移行期、つまりセザンヌからマレーヴィチやモンドリアン、カンディンスキーに移り変わっていった時代における絵画の本質を大学での研究テーマとしたのです。絵画の本質を突きつめるということは、表現の本質と精神的なものの本質に迫るということでもあります。私はこの研究を600ページからなる一冊の本にまとめましたが、つい最近「真実のセザンヌ」というタイトルで、アクト・スド社から刊行されました。
また、偶然にも私の一族がエックス・アン・プロヴァンスの出身で、19世紀以来の一族の地所があることから、エックスの風景には幼い頃から慣れ親しんできました。ですから、美術館の学芸員試験に合格する以前から、いつかエックス・アン・プロヴァンスの地で何らかのかたちでセザンヌに携わっていきたいと考えていたのです。25年前ここに来たときは、それがこのように大きなスケールで実現するとは思っていませんでしたが、セザンヌゆかりの風景に囲まれて過ごしてきたことが、セザンヌをより深く理解するために役立ったこともまた事実です。
つまり、私にとっては「プロヴァンスのセザンヌ」は単なる一過性の展覧会ではありません。絵画を通じて人生と思索の本質に迫るということを意味しているのです。
  2006年4月14日 バンジャミン・ヌーヴェル(MMF)による電話インタビュー
 
 
©Musée Granet
グラネ美術館プロヴァンスのセザンヌ展
会期
  2006.6.9-2006.9.17
会場
  グラネ美術館
所在地
  Palace Saint Jean de Malte-F-13100 Aix-en Provence
URL
  こちら
開館時間
  9 :00-19 :00(木曜は9 :00‐23 :00)
休館日
  「プロヴァンスのセザンヌ」展開催中は無休
入館料
  一般:10ユーロ
13〜25歳・障害者:7.50ユーロ
12歳までの子供:無料
セザンヌ2006
セザンヌ没後100周年の節目にあたる今年、セザンヌの故郷プロヴァンスでは、その功績を讃える大事業「セザンヌ2006」が開催中です。これを機に、ぜひプロヴァンスの地を訪ねてみてください。
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「セザンヌ2006」主なイベントカレンダー
セザンヌ2006
  MMFで出会えるセザンヌ
「プロヴァンスのセザンヌ」展の公式カタログをB1Fインフォメーション・センターにて閲覧いただけます。
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*情報はMMMwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は観光局ホームページ等でご確認いただくか、MMMにご来館の上おたずねください。