花ひらくエコール・ド・パリの画家たち

展覧会をより楽しむためのキーワード

1920年代〜30年代のパリ

▲展覧会場に入ってすぐ展示されている古写真が20世紀初頭のパリの雰囲気を伝える

19世紀後半から20世紀初めにかけて、フランスの首都パリは、経済的な発展によって支えられ、繁栄の時を謳歌していました。そして、第一次世界大戦と第二次世界大戦の狭間の1920年代から30年代のパリには、芸術家を目指す多くの才能が各国から集まってきました。こうした"異邦人画家"たちのことを、「エコール・ド・パリ」の画家と呼んでいます。

ジュル・パスキン《アンドレ・サルモンとモンマルトル》
1921年
北海道立近代美術館
▲モディリアーニと親しかった美術批評家アンドレ・サルモンも若い画家たちの擁護者だった

「この時代のパリは、いまでいうニューヨークのようなもの。アーティストが皆、あこがれる地、まさに"芸術の都"ですね」
学芸員江口氏は展覧会場に入って間もなく、こう説明をしてくれました。会場入り口に展示されているのは、「ル・ドーム」や「ラ・トンド」など、20世紀初頭、若き芸術家たちのたまり場となっていた有名カフェのモノクロ写真。経済的発展によって近代化の進んだパリの街に集った若き画家たちは、夜な夜なモンパルナスのカフェなどで芸術談義を繰り広げ、ほとばしる制作へのエネルギーをぶつけ合いました。多くの異邦人画家はパリで貧しい生活を送っていましたが、そんな彼らを支えたのは、ちょうどこの時代から増え始めた画廊や画商、そして美術評論家の存在でした。こうした後援者たちもまた、エコール・ド・パリの時代を作った影の功労者といえるでしょう。

異端であるということ

▲モネ《自画像》1917年
© service presse Rmn /Jean-Gilles Berizzi

19世紀、西洋絵画は大変革の時代を迎えます。まず、モネ(Claude Monet/1840-1926)やルノワール(Pierre-AugusteRenoir/1841-1919)らを筆頭に、戸外にカンヴァスを持ち出し、外光のもとで目に見えるままを描く「印象主義」の画家たちが登場。これはルネサンス以来続く、西洋絵画の常識を打ち破る「革命」といえるものでした。さらにはマティス(Henri Matisse/1869-1954)による「フォービスム」、ピカソ(Pablo Picasso/1881-1973)による「キュビスム」など、次々と新しい芸術の潮流が生まれていきます。こうして「エコール・ド・パリ」の画家たちが活躍する1920年代には、画家自身の価値観や作品の独創性がますます重んじられるようになっていったのです。
しかし、「エコール・ド・パリ」の画家たちの作品には、「印象主義」や「キュビスム」「フォービスム」などのように、共通した作風は見られません。東欧やロシアといった外国からやってきた画家たちの中には、超近代的都市であるパリの地で、強い孤立感や疎外感を抱いた者も少なくありませんでした。その日の食事にも困るような生活を送りながらも、フランス社会に溶け込むことのできない孤独な日々。そんな彼らは、自分自身の表現を、異邦人であることや異端な存在であることに求めていきます。「異質である」ということこそが、彼らのアイデンティティとなっていったのです。だからこそ、彼らが描くモティーフや表現方法はさまざまで、ひとつの言葉でくくることのできない多様な魅力にあふれているのです。

画家たちが紡ぐドラマ

▲パスキンの線描の美しさがよく分かる素描、水彩、版画の展示スペースは、ゆっくりと時間をかけて鑑賞したいi

例えばブルガリア出身でユダヤ人のパスキン(Jules Pascin/1885-1930)は、退廃的な生活を送りながら、プライベートで内面的な世界を描き出し、ロシア出身のシャガール(Marc Chagall/1887-1985)は、パリに出てきてからも故郷ヴィテブスクにイメージの源泉を求め続けました。そして日本出身のレオナール・フジタ/藤田嗣治(Leonard Foujita/1886-1968)は、日本の伝統的な手法を用いて、独創的な油彩を完成させました。パリという都会にあって独力で身を立てなくては生きていけなかった彼らは、外国から来た自分だけが持ち得る感性や視点を"武器"として、各自の作品世界で独創性に満ちた艶やかな花を咲かせていきました。

▲シャガールによる「ダフニスとクロエ」のリトグラフ連作(1957〜60年)。非常に状態のよい作品群が出品されており、今回の展覧会の見どころのひとつ

時代を超えて私たちが「エコール・ド・パリ」の画家たちの作品に魅了されるのは、激動の時代を異国の地で生きた画家たちの苦悩や葛藤といった"人間臭さ"を感じるせいかもしれません。エコール・ド・パリの作品をより楽しむには、描いた画家の出自や人物像、その生き様などを知ることも近道といえるでしょう。画家それぞれの異なるストーリーが紡がれたドラマの中から生まれた作品だからこそ、観る者の心に強く訴えかける珠玉の輝きを放っているのかもしれません。

Update :2011.8.17
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  • 会期
    2011年7月16日(土)〜9月4日(日)
  • 会場
    平塚市美術館
  • 所在地
    神奈川県平塚市西八幡1-3-3
  • Tel
    0463-35-2111
  • URL
    http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/
  • 開館時間
    9:30-17:00
    *入場は16:30まで
  • 休館日
    月曜日
    12月25日
  • 観覧料
    一般:800円
    高・大学生:500円
    中学生以下:無料
    毎週土曜日は高校生無料
 

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