フランスの写実主義を牽引した画家、ギュスターヴ・クールベ(Gustave Courbet/1819-1877)。彼のモダニスムの精神は19世紀の美術界に革新をもたらし、印象派にも大きな影響を与えました。スイスとの国境に近いフランス北東部の町オルナン(Ornans)は、クールベ生誕の地。このオルナンにあるクールベ美術館が、3年以上にわたる大規模な拡張工事を経て2011年7月にリニューアルオープンしました。そこで今月の特集では、クールベの描いた景色が今も残る町オルナンと、クールベ美術館の魅力をお伝えします。

故郷を描いた大作でフランス画壇に革命を起こす

▲46歳頃のクールベのポートレート(1865年頃撮影)
©Public domain

 フランス北東部の都市ブザンソン(Besançon)から南東へ約25kmの場所に位置するオルナンは、中世より塩を運ぶ道、「ルート・デュ・セル(Route du sel)」の中継地点として栄えた古い歴史を持つ町です。町の中心には穏やかなルー川が流れ、その向こうには町を見下ろすように巨大な岩山がそびえ立っています。1819年、この雄大な景色が広がるオルナンの町で、フランスのレアリスムの巨匠、クールベは生まれました。クールベが幼少時代を過ごし、初めて絵の手ほどきを受けたのはこのオルナンであり、画家としてキャリアを確立してから彼の作品の題材となり続けたのも、この故郷の町でした。

▲ルー川が流れるオルナンの風景

 オルナンがクールベの故郷であることを世間一般に広めた作品のひとつに、現在オルセー美術館に所蔵されている大作《オルナンの埋葬》が挙げられるでしょう。当時の美術界にスキャンダルを巻き起こしたこの絵画は、クールベのモダニスムを体現した作品です。クールベは無名の人間の埋葬という日常的なテーマを、それまで宗教画や神話画に使われていた大画面に描くという大胆な試みに出て、当時のサロンの批評家たちに衝撃を与えました。

▲ギュスターヴ・クールベ《オルナンの埋葬》1849-1850年 オルセー美術館蔵
©RMN (Musée d'Orsay) / Gérard Blot / Hervé Lewandowski

その後もクールベは伝統的なアカデミーに対抗する写実的な大作を描き続け、フランスの絵画史に大きな革新をもたらしたのです。

故郷の豊かな自然からインスピレーションを受け続けたクールベ

▲クールベ広場にある《カジカ捕り》の噴水

 オルナンでは、現在もクールベと故郷の強い結びつきを感じることのできるスポットを各所に見つけることができます。クールベ広場と名付けられた町の中心部の広場には、クールベ作の《カジカ捕り》の彫刻が据えられた噴水があり、クールベが《オルナンの埋葬》を描いたアトリエも残っています。また町の中心から少し離れた場所には、クールベがスイスに亡命するまで暮らしていた「オルナン最後のアトリエ」が現存します。しかし何よりもクールベと故郷オルナンの強い絆を表しているのは、川の流れや岩山、草木や森といったオルナンの自然の風景でしょう。オルナンにはクールベの描いた美しい風景が、当時と変わらない姿で今も広がっています。

▲クールベが《オルナンの埋葬》を制作したアトリエ

 クールベは生前、愛する故郷を描く傍ら、こんな言葉を残しています。
「地方を描くには、その土地を知る必要がある。わたしは故郷を知っているからそこを描くのだ。これら森の下生えはわたしの家。これはルー川、この流れはリゾン。これはオルナンの岩、これはピュイ=ノワールの岩。ぜひ見に出掛けてみたまえ。わたしの絵画の風景を発見することができるだろう」。

Update : 2011.10.1
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オルナン

パリの南東345kmに位置するフランシュ=コンテ地域圏ドゥー県に位置する町。町の中心をルー川が貫き、自然豊かな景観が楽しめる。

 

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