ジャン・コクトー美術館―セヴラン・ワンダーマン・コレクション Musée Jean Cocteau collection Séverin Wunderman

ふたつでひとつのコクトー美術館

▲新コクトー美術館建物

ワンダーマン・コレクションの寄贈で
新たに誕生したコクトー美術館

2011年11月にオープンした「ジャン・コクトー美術館セヴラン・ワンダーマン・コレクション」は、前述の旧コクトー美術館(要塞美術館)のすぐ近く、旧市街のふもとの港を臨む絶好のロケーションにあります。2008年に着工、3年の年月をかけて完成した建物の設計は、2006年にグランプリ・ナショナルを受賞した建築家ルディ・リッチオッティ(Rudy Ricciotti/1952-)の手によるもの。


▲新コクトー美術館内「遺言」のテーマ展示
▲新コクトー美術館内「神秘」のテーマ展示

シンプルかつモダンな外観には、コクトー作品から着想を得たさまざまな仕掛けが隠されています。エリザベート・ド・ポルザンパルク(Élizabeth de Portzamparc)が手がけた建物内部の空間デザインは、一見奇抜な外観とは対照的に、展示作品を最大限に引き立てる、白で

▲セヴラン・ワンダーマン
©Ville de Menton

統一されたミニマルな演出となっていますが、ゆるやかな螺旋を描く展示順路など、コクトー作品に頻出するモチーフが見て取れます。
 新コクトー美術館建設のきっかけとなったのは、ワンダーマン・コレクションの寄贈でした。ベルギー生まれのセヴラン・ワンダーマン(Séverin Wunderman/1938-2008)氏は、グッチ時計の開発製造で財を成し、スイスの高級宝飾時計コラム社のデザイナー兼CEOとしても名を馳せた人物です。美術収集家として世界有数のコクトー・コレクションを築き上げましたが、それをフランスに「里帰り」させ、コクトーの名を冠する美術館に収めて後世に残したいと考えていたのです。その招致に名乗りをあげたのが、コクトーゆかりの地のひとつであるマントン市。フランス文化省の後押しを得て精力的に動いた結果、2005年に990点のコクトー作品と、840点の関連作品の寄贈が実現し、世界最大規模の公共コレクションが誕生したのです。

▲《ファヴィニ夫人》(1953年)
©ADAGP ©Serge Caussé, photographe
▲遺作となった映画『オルフェの遺言』(1960年)撮影中、ルシアン・クレルグによる《レ・ボー採石場の馬頭人》(1959-2011年)
©Lucien Clergue

死せる詩人の魂を宿す「要塞美術館」
カップルのように寄り添うふたつの美術館

 現在、新しいコクトー美術館には、そのコレクションの約1/5が常設展示されています。地上階と地下一階の広々としたスペースをテーマ別に仕切りつつ、概ねコクトーの幼少期から晩年までの時系列で展示しています。つねに「詩人」を自認していたコクトーが「絵画の詩」と呼んでいた作品群。その様式的変遷とともに、アイデンティティーを巡る問題、目に見えない世界への興味、愛する「この世を去りし者たち」を象徴する星のモチーフなど、生涯追求し続けたテーマが出現と消失を繰り返していく過程が示されています。

▲新コクトー美術館の展示室

 一方、2011年までコクトー美術館と呼ばれていた通称「要塞美術館」は、コクトーの遺志を実現した展示空間として存続しています。ワンダーマン・コレクションによる新館とは別に、要塞美術館には晩年の作品の一部と陶芸作品が展示されています。17世紀の石造りの砦を改装し、コクトーの死後、1965年にオープンした美術館でしたが、晩年のコクトー自身が修復と装飾の指揮を執ったことで名高いモニュメントでもあります。建物外壁と内部の床に施されたモザイク装飾には、旧市街のサン・ミシェル大聖堂前の広場と同様、マントン浜辺の小石が用いられています。建物脇に据えられた碑には、「私は、あなた方とともにいる(Je reste avec vous.)」という一文が刻まれ、死せる詩人の魂が、いまもなおここに生き続けていることを改めて思わせます。学芸員のセリア・ベルナスコーニ(Célia Bernasconi)氏は、この要塞美術館と新美術館は「カップルのように寄り添う、ひとつのコクトー美術館」であると言います。コクトーファンならずとも、一度、訪ねてみたいアートスポットです。

▲現在の要塞美術館
 
▲1950年代の要塞美術館
©Archives municipales de Menton
▲要塞美術館の絵皿
▲要塞美術館内部
Update : 2012.7.1 文・写真:高橋博(Hiroshi Takahashi)
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ジャン・コクトー美術館―セヴラン・ワンダーマン・コレクション Musée Jean Cocteau collection Séverin Wunderman

  • 所在地
    2, quai de Monléon 06500 Menton
  • Tel
    +33(0) 4 89 81 52 50
  • URL
    http://www.museecocteaumenton.fr
    (現在作成中)
  • 開館時間
    10:00-18:00
    (7、8月の金曜日は22:00まで)
  • 休館日
    火曜日、1月1日、5月1日、11月1日、
    12月25日
  • 入館料
    ジャン・コクトー美術館―セヴラン・ワンダーマンコレクション+要塞美術館:6ユーロ 企画展:5ユーロ ジャン・コクトー美術館―セヴラン・ワンダーマンコレクション+要塞美術館+企画展:8ユーロ

ジャン・コクトー美術館(要塞美術館)Musée Jean Cocteau- Musée du Bastion

  • 所在地
    Quai Napoléon III
    Bastion du Vieux Port 06500 Menton
  • Tel
    +33 (0)4 93 57 72 30
  • 開館時間
    10:00-18:00
  • 休館日
    火曜日、祝祭日
  • 入館料
    3ユーロ
  • アクセス
    〈マントンまでのアクセス〉
    鉄道ではパリ・リヨン駅(Paris Gare de Lyon)からニース駅(Nice Ville)までTGVで約5時間40分。
    空路ならパリのシャルル=ド=ゴール(Charles-de-Gaule)空港、またはオルリー(Orly)空港からニース(Nice Côte d'Azur)まで約1時間半。
    ニース駅からマントン駅(Gare de Menton)までローカル線で約30分。
    ニース空港からマントン市内まで約40km、車で約40分。
    〈美術館までのアクセス〉
    ふたつの美術館はマントンの海岸道路『プロムナード・ド・ソレイユ』の終端、同じ海浜公園内にある。マントン駅から約1.5km、車で約7分、徒歩約20分。
  • さらに、もうひとつの
    コクトー美術館
    2010年には、パリから南へ約50kmのミイ・ラ・フォレにも、もうひとつのコクトー記念館がオープンしました(http://www.jeancocteau.net)。ここでは、死の半年前にコート・ダジュールを去ったコクトーが最後の日々を迎えた家の様子が再現され、養子のエドゥアール・デルミット(Èdouard Dermit/1925-1995)が寄贈した約500点の遺品とともに一般公開されています。
  • MMFで出会えるジャン・コクトー
    B1Fインフォメーション・センターでは、ジャン・コクトーの関連書籍を閲覧いただけます。

*情報はMMFwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は美術館ホームページでご確認いただくか、MMFにご来館の上おたずねください。

 

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