ジャン・コクトー美術館―セヴラン・ワンダーマン・コレクション Musée Jean Cocteau collection Séverin Wunderman

2011年、コート・ダジュールの町マントンにジャン・コクトー美術館が新たに誕生しました。コクトーファンには広く知られた市庁舎『結婚の間』(1958年)と要塞美術館(1965年)に加えて、世界有数のコレクションを擁するこの美術館も誕生したことで、マントンは詩人コクトーの魅力を堪能するのに欠かせない土地となったといえるでしょう。

ジャン・コクトーとコート・ダジュール

▲ジャン・コクトー
©Keystone France

パリの喧噪を逃れ、南仏を訪れた詩人
コート・ダジュールは「創造の場」に

 コート・ダジュールの美しく豊かな自然は、ピカソ(Pablo Picasso/1881-1973)やマティス(Henri Matisse/1869-1954)をはじめとする多くの画家たちを魅了したことで知られていますが、詩人ジャン・コクトー(Jean Cocteau/1889-1963)もまたこの地方に惹かれた芸術家のひとり。とくに晩年の定期的な長期滞在(1950-1963年)を通して、数々の足跡を残しています。

 19歳で詩人デビューを果たして以来、美術、映画、文学、音楽、演劇、バレエなど多彩な領域で精力的に活動を続けてきたコクトーは、60歳を迎えたこの頃から、しだいに「パリとパリ的なもの」に対する居心地の悪さと疲労を訴えるようになっていました。休養のための短期滞在の予定が少しずつ伸び、ついにはこの地域をもうひとつの活動拠点とするに至ったのは、ここに新たな芸術的刺激を見いだしたからでしょう。

▲コート・ダジュールの港町マントン

 じつは、コート・ダジュールは、コクトーが初めて本格的にアトリエを構えた場所でした。美術教育とは無縁であったものの、芸術を好む裕福な家庭に育ち、子供の頃からデッサンに親しんでいたコクトーは、戦前から自筆の挿絵を添えた詩画集も発表してきましたが、書斎や旅先のホテルの部屋で描かれた作品群は、扱いやすいサイズの彩色素描が主でした。しかし、コート・ダジュールに自前のアトリエを持つことで、状況は大きく変わります。「サント・ソスピール荘」のアトリエでは友人ピカソの助力も得て、パステル、石版画、油彩、フレスコ画、ステンドグラス、陶芸など、これまで未経験だった技法に挑戦しつつ、新たな芸術的境地を開いていきます。

 コート・ダジュールは「隠れ家」であると同時に、「創造の場」となりました。

▲フェリシアン・トルド撮影《コクトーとピカソ》(1959年)
©Ville de Menton
▲コクトーが初めてマントンを訪れた1950年代の海岸通り
©Archives municipales de Menton
▲マントン旧市街

「コクトー巡礼の拠点」となった
コート・ダジュールの保養地マントン

 温暖な気候と、海と山に挟まれた独特の地形、そして「フランスの真珠」という異名で知られるマントンを、コクトーが初めて訪れたのは1955年のことでした。そのきっかけとなったのは、フェラ岬の高級保養地に別荘「サント・ソスピール荘」を持つ資産家ヴェスヴェレール夫人の招待でした。イタリアとの国境近くの海沿いにあり、19世紀後半に正式にフランス領となってからは、コート・ダジュールにおける人気保養地として発展した静かで美しい港町です。夏恒例のマントン音楽祭に招待されたコクトーは「豪奢と素朴が同居する」旧市街の不思議な魅力に心打たれたといいます。

▲ラルティーグ撮影
『結婚の間』制作中のコクトー(1957年)
©Ville de Menton ©J.H.Lartigue
▲マントン市庁舎
『結婚の間』正面壁画(1957-1958年)
©Patrick Varotto / Ville de Menton
▲現在の市庁舎
マントン市場

市長からの依頼を受け、翌56年からは、音楽祭のポスターや市庁舎の『結婚の間』の壁画装飾、のちにコクトー美術館(要塞美術館)となる要塞の修復・装飾計画など、地中海の風土や文化を取り込みつつ確立した独自の様式が際立つ、きわめて重要な作品群を残しています。コクトーの足跡が随所に残るコート・ダジュールですが、とりわけマントンは今回の新美術館オープンによって、コクトー愛好家必見の場が3つ揃ったことから、紛れもなく「コクトー巡礼の拠点」になったといえるでしょう。

Update : 2012.7.1 文・写真:高橋博(Hiroshi Takahashi)
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ジャン・コクトー美術館―セヴラン・ワンダーマン・コレクション Musée Jean Cocteau collection Séverin Wunderman

  • 所在地
    2, quai de Monléon 06500 Menton
  • Tel
    +33(0) 4 89 81 52 50
  • URL
    http://www.museecocteaumenton.fr
    (現在作成中)
  • 開館時間
    10:00-18:00
    (7、8月の金曜日は22:00まで)
  • 休館日
    火曜日、1月1日、5月1日、11月1日、
    12月25日
  • 入館料
    ジャン・コクトー美術館―セヴラン・ワンダーマンコレクション+要塞美術館:6ユーロ 企画展:5ユーロ ジャン・コクトー美術館―セヴラン・ワンダーマンコレクション+要塞美術館+企画展:8ユーロ

ジャン・コクトー美術館(要塞美術館)Musée Jean Cocteau- Musée du Bastion

  • 所在地
    Quai Napoléon III
    Bastion du Vieux Port 06500 Menton
  • Tel
    +33 (0)4 93 57 72 30
  • 開館時間
    10:00-18:00
  • 休館日
    火曜日、祝祭日
  • 入館料
    3ユーロ
  • アクセス
    〈マントンまでのアクセス〉
    鉄道ではパリ・リヨン駅(Paris Gare de Lyon)からニース駅(Nice Ville)までTGVで約5時間40分。
    空路ならパリのシャルル=ド=ゴール(Charles-de-Gaule)空港、またはオルリー(Orly)空港からニース(Nice Côte d'Azur)まで約1時間半。
    ニース駅からマントン駅(Gare de Menton)までローカル線で約30分。
    ニース空港からマントン市内まで約40km、車で約40分。
    〈美術館までのアクセス〉
    ふたつの美術館はマントンの海岸道路『プロムナード・ド・ソレイユ』の終端、同じ海浜公園内にある。マントン駅から約1.5km、車で約7分、徒歩約20分。
  • さらに、もうひとつの
    コクトー美術館
    2010年には、パリから南へ約50kmのミイ・ラ・フォレにも、もうひとつのコクトー記念館がオープンしました(http://www.jeancocteau.net)。ここでは、死の半年前にコート・ダジュールを去ったコクトーが最後の日々を迎えた家の様子が再現され、養子のエドゥアール・デルミット(Èdouard Dermit/1925-1995)が寄贈した約500点の遺品とともに一般公開されています。
  • MMFで出会えるジャン・コクトー
    B1Fインフォメーション・センターでは、ジャン・コクトーの関連書籍を閲覧いただけます。

*情報はMMFwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は美術館ホームページでご確認いただくか、MMFにご来館の上おたずねください。

 

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