クールベ、ヨンキント(Johan Jongkind/1819-1891)、ブーダン(Eugene Boudin/1824-1898)ら、モネがキャリアの初期に親交を持ち大きく影響を受けた画家たちの作品で展覧会は幕開けします。海辺から望む日の出や夕日を描いた作品は、まさにモネの《印象―日の出》を彷彿とさせる風景です。
また1870年から1871年にかけて滞在したロンドンで、モネはイギリスの巨匠ターナー(Joseph Mallord William Turner/1775-1851)の作品や、霧や粉塵によって視界の霞んだロンドンの風景に出会いました。そうした作品やロンドンの風景からも、テクニックや美意識、モティーフの面で、《印象―日の出》との共通点を見出すことができます。
本展の主役である《印象―日の出》が展示されているのは、展覧会の中盤です。ル・アーヴル港の風景画が集められたこのセクションでは、1872年から1874年にかけて描かれたモネの作品に加え、ブーダンやターナーの描いたル・アーヴル港の作品を展示しています。各作品の傍らに貼られているのは、それらの作品が港のどの位置から、どの方角に向かって描かれたかを示す地図パネル。戦争による破壊行為で、街の大部分が失われたル・アーヴルですが、19世紀当時の写真資料や地図を駆使し、絵画と対比させながらイコノグラフィー(図像学)の研究が徹底して行われています。検証の結果、《印象―日の出》が描かれたのは、大埠頭にあったアミローテ・ホテルの一室からではないかと推測されています。
また本展では地形学、気象学、天文学の視点でモネの《印象―日の出》を分析し、その描かれた日時を割り出すというユニークで興味深い調査を行っています。太陽の位置、ル・アーヴル港の水門の開放時間、潮の高さ、風向きなど、作品に描写されたあらゆるディテールが綿密に調べ上げられました。当時の気象観測結果と作品を照らし合わせたところ、モネが《印象―日の出》を描いたのは、1872年の11月13日朝7時半頃である可能性が高いという結論に達しています。長らく夕日と混同され続けていたこの作品のモティーフは、改めて日の出であることが証明されました。瞬間の風景を短時間で描いた印象派の画家の作品であるからこそ可能な研究テーマです。
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Update : 2014.12.1 文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
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