2014年4月の特集で取り上げた「印象派プライベートコレクション展」に続いて、パリのマルモッタン美術館では開館80周年を記念する企画展第2弾が開催中です。テーマはマルモッタン美術館が所蔵するモネ(Claude Monet/1840-1926)の珠玉の名画《印象―日の出》。副題は「クロード・モネの傑作の真の物語」です。印象派誕生のルーツとなった非常に有名な作品ですが、展覧会のメインテーマに据えられるのは、今回が初。モネの有名作品をさらに深く知ることで新たな感動を呼び起こしてくれる展覧会です。
2014年はマルモッタン美術館が80年を迎えるのと同時に、モネの《印象―日の出》が初公開されてから140周年を迎える年。霧に包まれたル・アーヴルの港を描いたこのモネの作品が、写真家ナダール(Nadar/1820-1910)の旧スタジオで行われた無名アーティストの展覧会に出品されたのは1874年のことでした。のちに第1回印象派展と呼ばれるこの展覧会で、シャリヴァリ紙のジャーナリスト、ルイ・ルロワ(Louis Leroy/1812 -1885)は、モネの《印象―日の出》を軽蔑と皮肉をこめて次のように批評しました。
「印象、確かにそうだ。私もそう思った。なぜなら強く印象的だからだ。ここには印象が描かれているのだろう。なんと大胆で安易な仕上がり!作りかけの壁紙の方がまだうまくできている!」。
“印象派展”と題されたこのルロワの辛辣な記事によって、造語である「印象派」の呼称が広く普及したエピソードは、美術ファンの間では有名です。しかしその発端の作品であるモネの《印象―日の出》が19世紀から20世紀初頭にかけてほとんど注目されず、半世紀以上忘れられていた事実はあまり知られていません。現在は印象派誕生のシンボルとして世界中に知られる《印象―日の出》ですが、そのステータスを得るまでには、知られざる長い道のりがあったのです。
これまでモネに関する大規模な展覧会が世界中で開催されてきましたが、「睡蓮」をはじめとしたモネの後期の作品の人気が非常に高く、キャリアの初期である1880年代以前の作品がメインテーマとして取り上げられることは稀でした。本展は印象派の原点として名高いモネの《印象―日の出》にテーマを絞り、その周辺のストーリーを洗いざらい紹介するという、今までにない試みの展覧会です。文献によって題名や制作年が異なるなど、曖昧な情報が少なくない同作品を改めて徹底研究し、これまでの疑問をひとつひとつていねいに解き明かしてゆきます。いつ、どこで何が描かれ、この作品の周辺で何が起こったのか、《印象―日の出》に関するすべての問いに答えてくれるのがこの展覧会です。
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Update : 2014.12.1 文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
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