パリの版画工房 イデム Idem, l’atelier de lithographie à Paris

オーナーが語る パリの版画工房 イデム

ジャーナリスト出身のイデムのオーナー、パトリス・フォレスト(Patrice Forest)氏。由緒ある工房の保存に尽力するオーナーに、イデムの役割、そしてイデムを行き交うアーティストたちについて語っていただきました。

 

▲イデムのオーナー、パトリス・フォレスト氏

 ここはたくさんのアーティストが行き来してきた特別な場所です。私たちはこれまでさまざまな日本人のアーティストたちと仕事をともにしてきました。最近では北野武(Takeshi Kitano/1947-)氏や辰野登恵子(Toeko Tatsuno/1950-)氏、そして日本で大変人気の高い李禹煥(リ・ウーファン, Lee U-Fan/1936-)氏などがイデムで石版画を制作しています。これからも世界中のアーティスト、とりわけ若い世代のアーティストたちがここで活動するのを願っています。私たちの意欲、使命というのは、空港のように人々が行き交う場所、つまりアーティストがまた別のアーティストと出会う場所を作り出すことです。技術や経験を持つ人間がこの工房で出会い、お互いに学ぶことができるというわけです。若い世代の人間と年上の世代の人間、また有名な人間やそうでない人間がやり取りをできるような空間をこの場所に作り出すことが私たちの本望です。この工房の空間内には、特別

▲イデムの工房で石版画の制作を行うデヴィッド・リンチ氏
©idem

な何かが漂っているように思います。実際にそれが何かは分かりませんが、ここにやってくるアーティストは大概それを知覚するアンテナを持っており、ここで起きている何か面白いことを感じ取っていきます。

 よく私はこの工房を風車や水車に例えてみますが、アーティストは、それらを

▲あえて欠けた石板を使用したデヴィッド・リンチ氏の作品
Courtesy Item éditions

回すことに必要不可欠な風や水に例えることができます。彼らがこの場所に息吹をもたらしていることからも、ここはアーティストの息吹の歴史といえるでしょう。この工房へ偉大なアーティストがやって来る時、例えば、デヴィッド・リンチ氏がこのアトリエで制作をしている時、私たちは大きな息吹を感じることができます。そんな際、この場所が消えてなくなってしまうようなことは有り得ないように思うのです。

 

 以前パリにはそれは多くのアーティストのアトリエが存在しました。例えばジャコメッティはこの工房の近くに住んでいましたし、藤田嗣治(Tsuguharu Fujita/1886-1968)もこの界隈に住んでいたアーティストのひとりです。現在は近くにアーティストがいる状況ではありませんが、それでもこのパリの工房はある種のサンクチュアリ(聖域)を作り出すことに成功していると思います。ここは、保存し、支え、そして発展させるという多様な機能を持った特別な場所なのです。

 

▲工房で刷られた若手アーティストJRの写真のリトグラフ作品
▲隣接するギャラリーitem(イテム)では、アトリエで刷られた作品の購入が可能

[FIN]

Update : 2012.3.1 文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
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イデム(工房) Idem

イテム(ギャラリー) item

 

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