本展ではまず、バウハウスの原点となったさまざまなインスピレーションをひもといていきます。
第一に挙げられるのは、芸術と工芸を一致させようとしたイギリスのウィリアム・モリス(William Morris/1834-1896)によるアーツ・アンド・クラフツ運動です。芸術家と職人の区別を取り払う姿勢にグロピウスは共感し、この考えを教育現場において普及させることに努めました。
またバウハウスの精神は中世の職人の世界からも受け継がれています。例えば中世のカテドラル(大聖堂)の建築現場の様子を想定し、建築、絵画、工芸など、異なる分野の職人らが一丸となって共通のプロジェクトに取り組む形態を見習おうとしました。それはアーツ・アンド・クラフツ運動をはじめ、ウィーン工房など、ヨーロッパ各地で起こったモダニズムのムーブメントが提唱した「総合芸術」のあり方でした。本展冒頭の展示室の中央に、中世のゴシック様式の装飾が据えられているのはそのためです。手工芸を重視したバウハウスの教育方針も、中世の職人の世界からヒントを得ています。
さらに遠い異国の芸術も同様にバウハウスに影響を与えました。当時のドイツには日本や中国の古美術品や版画など東洋美術に関する豊富な資料がそろっており、コレクターも数多く存在しました。本展では着物の文様の型紙や備前や瀬戸の焼き物といった日本の伝統的な工芸美の数々と、バウハウス作品を比較する展示を行っています。日本美術独特のシンプルで機能的なデザインと、バウハウスの合理的なモダニズムに共通点を見つけることができるのは、決して偶然ではないことが分かります。
▲バウハウスの学生たちが実践した課題の数々
Les Arts Décoratifs, exposition 《L’esprit du Bauhaus》, 2016-photographie : Luc Boegly
バウハウスの3年間から4年間の教育課程で特徴的であったのは、すべての学生が入学後に受講する必須の予備課程でした。
▲カンディンスキーによる9色からなる円状の色彩研究 1922年〜1933年
© Centre Pompidou, MNAM-CCI, Dist. RMN-Grand Palais / Philippe Migeat
教授陣に名を連ねていたのは、ヨハネス・イッテン(Johannes Itten/1888-1967)やパウル・クレー(Paul Klee/1879-1940)、ワシリー・カンディンスキー(Wassily Kandinsky/1866-1944)といった著名な芸術家たちです。構図や形状、色彩などのセオリーを学ぶ講座と実技の課程を交互にこなしながら、生徒たちは造形芸術の基礎を学びました。展示にある赤、青、黄、円、三角、四角のコンポジションはカンディンスキーによる有名な講座です。バウハウスの学生たちはこの一見地味な予備課程の課題で、画期的なデザインをもたらすバウハウスのエスプリを養ったのです。
学生たちはその後それぞれ希望する分野の工房へと進み、造形のあらゆるノウハウを学びながら作品制作に取り組みました。そして職人となるための試験を受け、最終的にバウハウスのディプロマを得たのです。
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Update : 2017.1.5 文・写真 : 増田葉子(Yoko Masuda)
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