家具、陶磁器、金属、ガラス、壁画、彫刻、テキスタイル、タイポグラフィー、広告、写真、舞台など、バウハウスの専門課程である工房は多彩な分野に分かれていました。本展では素材の研究や、色、リズム、動きの課題、模型やテキスタイルの見本、タイポグラフィーの試作などと並行して、工房で制作された作品の数々を展示しています。造形を学ぶ学校としてのバウハウス、作品を生み出す工房としてのバウハウス、これら2つの側面を同時に鑑賞することで、バウハウスのエスプリをより鮮明に感じ取ることができる展示内容です。
▲ウィルヘルム・ワーゲンフェルド(Wilhelm Wagenfeld/1900-1990)デザインのテーブルランプ
1923年〜1924年
© Centre Pompidou, MNAM-CCI, Dist. RMN-Grand Palais / Jean-Claude Planchet / A.D.A.G.P. 2016
家具の工房の展示でぜひ注目したいのは、バウハウスの卒業生のひとり、マルセル・ブロイヤー(Marcel Breuer/1902-1981)による有名なパイプ椅子です。現在も見慣れている工業デザインがバウハウスを起源としている場合は珍しくありません。例えば展示にあるテーブルランプも、現在頻繁に見かけることのできるデザインです。機能性を備えた完成度の高い工業デザインは、流行りや廃りなく、永く日常に生き続けることが証言されています。
またテキスタイルの工房の展示で存在感を放っているのは、バウハウスのディプロマを取得後、女性初のマイスターとなったグンタ・シュテルツル(Gunta Stölzl/1897-1983)によるタピスリーです。これは1枚の織物にシルク、コットン、ウールの3つの異なる素材を使用している手の込んだ代物。幾何学のモチーフと豊かな色彩は、カンディンスキーの予備課程の課題を思わせます。素材の研究、色、形のコンポジションと、バウハウスのエスプリの基礎を体現したような作品です。
そして工房の作品であると同時に、貴重なバウハウスの資料でもあるのが、写真の数々です。斬新な構図や遊び心あふれる被写体のポーズ、自然に生まれた学生たちの笑顔など、バウハウスのユートピア的な校風が作品から滲み出ています。当時のドイツ社会の不穏な空気とは対照的に、バウハウス内では創造意欲に満ちた若者らが自由を謳歌していたことが伝わってきます。
▲マチュー・メルシエ氏によってセレクションされた現代作家の作品の一部
Les Arts Décoratifs, exposition 《L’esprit du Bauhaus》, 2016-photographie : Luc Boegly
本展の終盤に待ち受けているのは、フランス人アーティストのマチュー・メルシエ(Mathieu Mercier)氏によって選ばれた、1960年代以降に生まれた約50人の現代作家のクリエーションです。中にはジュンヤ・ワタナベ(Junya Watanabe/1961-)など、日本人デザイナーの作品も含まれています。直線や円を多用したシンプルなライン、素材を生かしたデザイン、また調和のとれたカラフルな色合いなど、バウハウスを匂わせる独特の奇抜さが光る作品が集められています。バウハウスのエスプリが確実に受け継がれ、今も分野を問わずアート界全体に息づいていることを改めて発見できる興味深い展示内容です。
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Update : 2017.1.5 文・写真 : 増田葉子(Yoko Masuda)
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