▲ラリック美術館館長のヴェロニク・ブリュム氏

 今回の美術館訪問では、ラリック美術館館長に就任されたヴェロニク・ブリュム(Véronique Brumm)氏が直接館内を案内してくださいました。美術館の各部門からぜひ注目したい5作品をセレクトしてもらい、MMFのwebサイトをご覧の皆さまだけに、それぞれの作品の解説をしていただいています!

《夕日の風景の櫛》

©Lalique SA

 この《夕日の風景の櫛》は、1900年頃に作られたものです。この作品は幾つかの理由から興味深い作品といえます。まず、使用されている素材に関してですが、ラリックは斬新なデザインはもとより、使用する素材の多様性から、モダンジュエリーの先駆けのデザイナーと見なされていました。この七宝や金を使った角細工も、ラリックが新しい素材を使用した代表的な作品です。また19世紀末から20世紀初頭、特に1889年のパリ万博以降は、フランスが日本の影響を強く受けていた時代です。時代の流行に鋭敏だったラリックももちろん、ジャポニスムから大きなインスピレーションを受けました。この作品も、日本の影響のもとに製作されたことにお気づきいただけるでしょう。

《ツバメの香水瓶》

©Lalique SA

 この《ツバメの香水瓶》は1920年に製作された作品で、現在ラリック社ではクリスタル製の復刻版が製造されています。この香水瓶をセレクトした理由は、ラリックのキャリアの中でも代表的なクリエーションと呼べることからです。この作品は描かれたツバメのモチーフがユニークで、そのフォルムはラリックの製造した大量生産の香水瓶の典型として挙げられると思います。本作と同じようなデザインで、バラや日本のリンゴの花を描いたもの、蓋の部分がクワの実やカシスを模した彫刻になっているデザインのものもあります。

《フローラ・ベラ》

©Lalique SA

 この《フローラ・ベラ(Flora Bella)》と名付けられた鉢は、1930年に作られたもので、「R. Lalique」のサインが刻まれています。しかし本作は、おそらくラリックの娘であるスザンヌ(Suzanne Lalique/1892-1989)とコラボレーションした作品ではないかと考えられています。スザンヌは、リモージュ焼きで有名なアヴィランド(Haviland)社の家系で、写真家であるポール・ビュルティ・アヴィランド(Paul Burty Haviland/1880-1950)と結婚しました。彼女は陶磁器製作を行い、またコメディー・フランセーズをはじめとした当時の重要な劇場の舞台装飾も手掛けた人物です。この鉢は彼女のクリエーションの中でも代表的なもので、アヴィランド社の陶磁器には、よく似た形の作品が存在します。その陶磁器も「フローラ・ベラ」と呼ばれ、その名はスザンヌと親交のあったフランス人作家ジャン・ジロドゥ(Jean Giraudoux/1882-1944)の作品に由来するものです。この作品の面白い点は、色の効果ではないでしょうか。すべて同じ色のブルーのガラスで作られていますが、場所によって厚みが違うため、異なる色合いのニュアンスが見られるのが特徴です。

《孔雀のランプ》

©ADAGP 2011 Paris- JL Stadler

 この《孔雀のランプ》はルネ・ラリックによる作品で、1910年に作られたものです。美術館が所蔵している作品は、フランスの元首相アントワーヌ・ピネー(Antoine Pinay/1891-1994)の旧蔵品です。このランプにはかさの部分に4羽の羽根を広げた孔雀が描かれており、脚の部分にも同様に孔雀が描かれています。たいへん興味深いのは、ラリックは照明の分野にも革新をもたらしたという点です。クリスタルで有名なバカラ社(La cristallerie Baccarat)やサン=ルイ社(Cristallerie de Saint-Louis)は、電球が登場してからも、ろうそくを使用する伝統的な型の照明器具にろうそくの形をした電球を取り付ける照明を生産していました。しかしラリックは、近代の象徴でもあった「電気」という発明にもいち早く着目し、ガラスの透明感を生かして間接的な明かりを作り出しました。ここにもラリックの先見性がよく表れています。

《バッカスの巫女の花器》

©Lalique SA

 この《バッカスの巫女の花器》は、ラリックのクリエーションの中でもっとも象徴的な作品です。1927年に製作された本作は、大きな商業的成功を収め、今日に至るまでベストセラーとなっています。インスピレーションの源となったのは、ラリックがジュエリー、そしてガラス工芸にも使用するのを好んだ「女性」や「家族」です。展示室では、鋳型から仕上げの刻印までの製造段階、そして工程ごとに変化していく素材の表情を実際に展示品に触れながら見ていただけます。クリスタル製造の複雑さをご紹介するだけでなく、ラリック社の製品の質の高さを感じていただけることでしょう。またラリック社では2級品の販売は一切行わず、1級品の販売のみを行っていることもお分かりいただけると思います。

▲作品の製造工程を紹介する展示台

ラリック美術館館長、ヴェロニク・ブリュム氏からのメッセージ

[FIN]

Update : 2011.9.1  文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
ページトップへ

  • 所在地
    40 rue du Hochberg 67290 WINGEN-SUR-MODER
  • Tel
    +33(0)3 88 89 08 14
  • Fax
    +33(0)3 88 03 42 75
  • URL
    http://www.musee-lalique.com
  • E-Mail
    info@musee-lalique.com
  • 開館時間
    4月1日〜9月30日:10:00-19:00
    10月1日〜3月31日:10:00-18:00
    *学校の休み期間中は10:00-19:00
  • 休館日
    1月、12月25日、月曜日(10月1日〜3月31日)
  • 入館料
    一般:6ユーロ
    割引料金:3ユーロ
  • アクセス
    パリのGare de l'Est駅からStrasbourg駅までTGVで約2時間20分。
    Strasbourg駅からWingen-sur-Moder駅まで電車で約40分。
    Wingen-sur-Moder駅から徒歩15分

 

*情報はMMMwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は観光局ホームページ等でご確認いただくか、MMMにご来館の上おたずねください。